われら南陶(なんとう)学園生徒会!

対機密情報泥棒後編
 
花笠柚癒

 
☆前編の流れ☆
準生徒会という皮をかぶった戦闘集団、裏生徒会。いつもどおり生徒会室でグダグダしていると、突如緊急放送が! どうやら、機密情報でいっぱいの地下室が狙われているらしい。戦え、裏生徒会。南陶学園の平和のために!(マンネリな締め方
※ 嘘の情報、極度の誇張表現が含まれます。正しい流れは前編をご覧ください。


「首謀者たちが……パスワードの解析を開始してしまったようです! 私もこんな事態は予想していませんでした……。そこにいるものたちの回収には生徒会を向かわせます。あなたたちは地下へ急いでください!」

そんな通信を受けてから、しばらく走り続けてからのことだった。多分、全員同じ疑問を感じてはいるのだろうが、誰も口に出そうとはしない。
「ねぇ…由美さん」
とうとう『二番目(セカンド)白露爽(しらつゆさやか)が耐え切れずに口にした。
「地下室ってどこにあるの…?」
そう、先ほどから五人は延々と学校中を走り回っているのである。しかし、目的の地下室には一向にたどり着く気がしない。
「確かに、ずっと同じところを回っている気がするんスけど」
と、言ったのは『四番目(フォース)九寸斑(くすんまだら)
「だって……学園長、場所教えてくれなかったんだもん!」
責任を一手に押し付けられた『一番目(ファースト)拍手(かしわで)由美はとっさに反論する。向かう地下室は、この学園内の情報すべてを詰めたパソコンのある、並の生徒は存在すら知らない部屋。そんな部屋の位置が、どうして知られているのか、狙われたのかはわからない。

芽久(めぐ)……本当にやる気なの?」
「えぇ、姉さん。というより、姉さんでしょう、やろうって言い出したのは」
そうだ、言いだしたのは私だ。ここで引き下がったら、愛しの弟のための今までの努力が無駄になる。
「でも、さすがは厳重に保護されているパソコンですわね」
「ここまでするほど、他とは比べ物にならないほど大事な情報があるんですよ、きっと。でも、僕が目当てにしているのはそこじゃない。姉さんが見つけてくれたこのパズルなんだからね」
「ねぇ、芽久。もし、これで満足しなかったらどうするの?」
「そのときは……また何か探しますよ」
遠くから足音が聞こえてくる。もう嗅ぎつかれたのだろうか。
「じゃあ、芽久。私は、あなたの邪魔者を排除してくるからね」
弟に微笑みかけた後、入り口へと向かう。誰であろうと芽久の邪魔は、させない──!


やっとのことで学園長から地下室の場所を聞くことに成功したものの、中は真っ暗で何も見えない。何度、階段から落ちそうになったことか。すっと壁に手を触れた『三番目(サード)』九寸雪がつぶやく。
「これ、壁じゃなくて……本? ということは、これは本棚?」
延々と多量の本を詰め込んだ本棚が、通路を形作っている。
「もしかして、これ全部守らなきゃいけない、って言うの?」
「いや、違う。学園長はパソコンを守れ、って言っていた。さっき、パスワード云々って言っていたし」
「ずいぶんと早い到着ですわね。」
闇の奥からすっと人影が現れた。全員反射的に警戒態勢をとる。
「あ、あんた……」
声を上げたのは、爽だった。
染科(そめしな)……!?」
「え……白露、知り合い?」
斑が状況にまったく似合わない驚きの声色で、全員が思ったであろう疑問を口にする。
「ええ、同じ学年の染科野鞠(のまり)よ」
「ってことは、学生ってわけか。さっきの集団が大人ばかりだったから、てっきり首謀者も大人かと思っていたけど」
「さっきの集団? 何のことかわかりませんけど、まさか、私のことを知っている人間が混ざっているとは思いませんでしたわ。同じ学年でも、私との間に面識が存在している人間なんてクラス内でもそういないはずなのに」
「甘いわね、間接的に見知っている場合だってあるかもしれないでしょうが」
「そうね……でも、本当に甘いのはどっちなのかしら。あなたたちにこうして悠長にしゃべっている時間なんてないはずですわよ?」

姉さんは、本当に邪魔者を排除してしまったのだろうか? セキュリティシステムもすべて解除し終わってしまったし、パスワードの解析も終わった。後は『Please enter key.』って書いてあるから、エンターキーを押したら何かが起きるんだろうけど……。僕は、やることがなくなったので、エンターキーを押してから、姉さんを呼びに行くことにした。


「私の芽久が、パズルを解き終えるまでは誰にも邪魔はさせませんことよ!」
爽が染科と呼んだ少女は、どこに隠し持っていたのかナイフを取り出してこちらに向かって走ってくる。
「さすがに……これはやりすぎだろ!?」
そういって斑が短刀で、その刃を受け止める。
「こいつは、俺が引き受けますから! 今のうちに早く弟やらを止めてください!」
「数での不利は考えていませんでしたわね……」
悔しそうに野鞠は、唇をかんで、再度攻撃を開始した。


キィンッ、と金属と金属がぶつかる独特の高い音が聞こえた。相手は凶器を持っている? 姉さんは……?
「お前か!」
リーダーと思しき人が、僕のことを呼んだ。このままじゃ、僕も殺される……! あわてて、しかし冷静に周辺にあった機器をいじる。ウィィィンという音とともに、壁が僕と彼らを隔てた。

あと少しのところで目の前を壁が自動ドアのように、犯人とあたしたちを隔てた。
「な、何よ、この壁!」
「材質的に、そこまで堅くないとは思うのですが……鋭利な刃物でなら切れると思います」
しかし、刀を使う斑は交戦中である。頼れるのは──
「おい、(あざみ)! お前の鎌の出番だぞ!」
「すまん、忘れた」
と、『五番目(フィフス)利鎌(とがま)薊はわびる様子を微塵も見せずに言った。
「こんなときに……使えないやつだな、お前は!」
「果たしてそうかな?」
自身ありげに、それでいて楽しそうに薊は笑う。
「私は、最終手段を持っている」
「最終……手段?」
すると、中から声がした。
「すみません、なんか、ディスプレイに『情報漏えいまで後一分』って出てるんですけど……」
「何よ、今更! わざとやってるんでしょう!?」
「ち、違います! 僕はただパズルを解いていただけで──!」
「……パズル?」
と、言うことはこの声の主は犯人じゃないのか?
「このパソコンのセキュリティシステムのことです。後、何かのパスワードの解析も」
「つまり、その行動が知らず知らずのうちに情報漏えいの引き金になっていたということか」
「しかも、止まらないんですよ、これ!」
「ならば、それこそ最終手段の出番だな」
「そうだ、その最終手段って結局何なの?」
「ここにある薬品を合成して──」
と、いいながら、薊は白衣のポケットから薬品を取り出す。
「ニトログリセリンを生成、小規模な爆発を起こす」
誰もが驚きのあまり言葉を失った。沈黙がその場を支配する。
「爆発を起こされたくなかったら、さっさと出てくるんだな」
「出るだけで止めるのなら、すぐ出ますよ! えーっと……」
先ほどと同じように、しかし今度は逆方向に壁が動き、犯人と思われていた少年が姿を現した。しかし、薊は合成の手を止めない。
「おい、お前……! もう必要ないだろうが!」
「いやあ、楽しくってね。止められないわ、これ」
思わず、薊に殴りかかって止めようとする由美を雪と爽が止める。
「ダメですよ、由美さん! ニトログリセリンはちょっとした衝撃で爆発するんですよ!?」
こうなると、薊は本気で止めないだろう。今、一番やらなければいけないことは──。
「全員、地下室から出ろ!」
途中で、まだ戦っている二人にも声をかける。
「な、何かあったんスか!?」
「薊がここを爆破する気らしい! 巻き込まれたくなかったら、染科、だっけ? あんたも早く逃げろ!」
しばらく野鞠はあまりの勢いに唖然としていたが、弟が共に逃げているのを見て、血相を変えてついてきた。どうやら、極度のブラコンらしい。わざわざ女装までして入学した、どこかの阿呆兄貴よりかはマシに思えたが。


最後に部屋から出てきた薊が、扉から数メートル離れたところから石を投げ込もうとしていた。薬品を持っていないところを見ると、原液をそのまま撒いてきたようだ。しかし、あたしの脳裏に一番重要なことがよぎった。
「待て! そんなことしたら、データごと……!」
時すでに遅し、とはまさにこのことだろう。すでに、石は薊の手を離れ、暗闇の中へと吸い込まれていった。一瞬の沈黙の後、すさまじい衝撃と爆音が起こった。


「で? どうしてこういうことになったのですか?」
そして、今あたしたちは学園長からの説教をみんなで仲良く受けているわけだ。もちろん、染科兄弟も含めて。
「情報が漏洩するよりかは、はるかにマシだろう」
「バックアップがあったからよかったものの……なかったら、どうするつもりだったんですか、『五番目』」
「と、ところで……真犯人はいったい誰だったのですか?」
うまいタイミングで雪が間に割って入る。このまま、親子喧嘩に突入されても困る。
「あなたたちが捕らえた人々……あの人たちでした」
どうやら、彼らは目的の部屋へたどり着く前に不幸にもつかまってしまったようだ。
「あなたたちは、どうしてあの部屋へいたのです?」
「わ、悪いのは私だけです、学園長! 芽久は何もしていませんわ!」
「私の質問に答えなさい、何故あの部屋にいたのです?」
それ以降、野鞠は言葉を失い、芽久が洗いざらい今回の話を白状させられていた。この説教時の学園長の迫力はどうにも形容しがたいものがある。とりあえず、いえることはこれだけだ。とにかく怖い。


結局、掃除をするということで、今回は許してもらえることになった。が、爆発の規模は想定以上に大きかったらしく、本という本が無残な姿になって床へ積もっていた。
「お前のせいだからな」
「ほう、私のせいにするというのか?」
「もう、由美さん、夫婦喧嘩はいいですから、手を動かしてくださいよ」
直後に、由美の顔が真っ赤に染まる。
「だ、何が夫婦喧嘩だ!」
「いだっ! また、投げましたね!? 毎回、どこから出すんですか、そのスリッパ!」


「ねぇ、一つ言ってもいい?」
「なあに、会長?」
「どうして特に関わっていない私たちにまで掃除命令が下ったのかしら」
「そこはプラスに、裏の人たちが頼りないからだ、って考えましょうよ、会長!」

〜終〜


=前後編なんかにするんじゃなかった!(あとがき)=
何だ、この終わり方は! ごめんなさい、土下座して謝ります。 とりあえず、前後編にしたことを果てしなく後悔しています。気づけば前編からは考えられないほどに明るい方面へ。おかしいな← ちなみに一部、前編と表記が変わっているのは仕様です。

本当はこれと一緒にもう一本短編を投下したかったのですが、テストあけの時間の無さにより、なくなってしまいそうです。一応、これは一次締め切りに間に合わせて書いたので、最終締め切りまでにどうなっているかはわかりません。書けていたら……いいんだけどなぁ。
@十二月十七日 〇時四十二分(また徹夜でした


JACKPOT60号掲載
背景画像:空に咲く花

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