われら南陶(なんとう)学園生徒会!

対機密情報泥棒 前編
 
花笠柚癒

私立南陶学園。寮も男女別にあり、冷暖房完備など設備も万全。そして、学力的にも申し分ないというすばらしい共学の中高一貫校である。これは、その学園内の南陶学園生徒会、略して南学生徒会の裏で暗躍する裏生徒会の物語である。

「それにしても堅苦しい前置きだわね。」
そう発言したのは裏生徒会のトップに立っているのであろう1stの拍手(かしわで)由美。ここ、裏生徒会には会長だの副会長だのといった役職は一切存在しない。だからといって、1stの由美が一番上に立っているというわけでもない。最初に裏生徒会を形成することになった四人が、適当にじゃんけんで序数を決め、後から入った一人がそのまま五人目になったというだけである。
「いいよ! 堅苦しくないよ! よくこういうのから始まっていく話とかもあるよ!」
そう反発するのは2nd、白露(しらつゆ)(さやか)
「そうきたら、やっぱり登場人物の紹介も必要よね!」
「な、爽! ちょっと待──」
「私に反発を続けるのが、われらのリーダー的存在、柏手由美。俗に言うツンデレってやつに近いのよね。ちなみに彼女は、現在進行形で裏生徒会の誰かに恋している乙m」
「余計なことを言うな、この常時妄想女が!」
爽の後頭部めがけて、スリッパが一直線に飛んできて命中する。
「ぐふっ! …うーん、相変わらず痛い! 彼女はこの生徒会内の(過激な)ツッコミの役目も果たしていますよ〜。」
「爽さん…大丈夫ですか?」
「あ、うん。彼女がいつもこんな私を心配してくれる心優しいわれらの女神3rd、九寸(くすん)雪ちゃんですー。」
「えっと…、何してるんですか?」
「ん? あぁ、えーっとねかくかくしかじかで登場人物の紹介をしているの。」
「そうなんですか? 大変そうですね。」
「いやいや、それがそんなこともない…あ、あれは!」
彼女の視線の先には、一人の少女。
「シスコンで名高い、変態女装兄貴!」
すると、その少女は爽のほうに向き、大声でこういった。
シスコンで何が悪いか!
「開き直ってどうするのよ! …この変態が雪ちゃんの兄で4th、五分(いつつぶ)牡丹もとい九寸(まだら)。極度のシスコンで、寮で暮らす雪ちゃんが心配だからって、共学校のこの学園に女装して入学した馬鹿よ。」
「お前、先輩への口の利き方を知らないのか?」
「お兄ちゃん、爽さんに迷惑をかけちゃダメですよ?」
「…そうだな、雪。今日は雪に免じて許してやろう!」
「いつも、そればっかり言ってるじゃない。さて、ラストの一人は…あれ?サボりですかね?」
まだ裏生徒会の一番の新入りにして一番の厄介者が来ていない。
「いや、それはない。一応変なところはまじめだし、最近は楽しんでいる様子も見え───」
バタンと勢いよくドアの開く音がし、続いてゴン、と鈍い音がする。彼がドアをくぐるときのお決まりの音だ。
「やあ、私の素敵な実験d…もとい、友人たちよ!」
「出たな、変人サイエンティストめ!」
戸口に立つ白衣を着たひょろ長い青年に由美の蹴りが飛ぶ、が青年はすっとそれをよけてしまう。しかし、由美の怒りはそれだけでは収まらないらしく、青年の服の襟元をつかんで一気にまくし立てる。
「このやろう、遅刻は許さないといっただろうが! それに、毎度毎度無駄な勢いでドアを開け閉めしやがって! ドアが壊れたらどうするんだ、お前が弁償するのか?」
「そんなに簡単に壊れるドアはない。」
「ここ最近、変な音がなってるんだぞ、このドア。」
「それより、この天井の低さを何とかしてほしいのだが。」
「そこは天井とは言わないと思うが…って、いい加減に普通に通ろうとしたら頭打つことを覚えろよ!」
「えーっと…あれが、5thの利鎌(とがま)(あざみ)。学園長の息子さんで、頭脳明晰で変人。ここ大事ね。ことあるごとに、私たちを実験台扱いしてきたり、問題発言を連発したりする困った人です。」
「なに、薬品を買おうと薬局にいったら店主のやつ、年齢がどうのといって、薬を出してくれなくてな…催涙ガスを吹きかけてきてやった。」
といって、白衣のポケットからスプレー缶を取り出す。
「ちょっと待て! お前、平然と言ってるけどそれ、危険だから!」
「大丈夫だ、目撃者はいない。」
「いや、目撃者いる、いない以前に人間としてダメだから!」
「また…終わりそうにないですね。」
少しあきれたように苦笑交じりでつぶやく雪。
「仕方がないわ、あの二人っていつもこんな感じじゃない。由美さんはツッコミ気質なのもあるけど、照れ隠しで嫌でもああいう反応しちゃうんじゃない?」
それはいつもの光景、いつもの放課後であった。


平凡な放課後だった。また、意味もなく生徒会室に集まり、特にやることもなく、ただグダグダしゃべっていた。それで、気がつけば下校時間が来るはずだった。だけど、その日の放課後はいつもと違った。
「緊急事態発生! 南陶学園校舎内に不審者侵入! 生徒、および教職員の皆さんは至急運動場へ避難! 繰り返します!」
何の前触れもなく、そんな放送が入ってきた。声の主は学園長。
「なお、生徒会および準生徒会メンバーは至急学園長室まできなさい!」
放送の最後の一文は、こうだった。裏生徒会は、やっていることが表面に出てはいけないような集団なので、そんな風に呼ばれているが、それはあくまで内輪で区別するためだけの話だ。学園長を除く学校全体に対しては準生徒会メンバーで通っている。

まあ、なんにせよ仕事だ。

メンバー全員が我先にと、生徒会室の扉を潜り抜けていく。後ろで鈍い音がする。また薊が頭をぶつけたのだろう。

「皆さん、校内放送は聞いてくれましたね?」
彼女が、この南陶学園の創始者であり、学園長を務める利鎌沙幸(さゆき)だ。
「侵入者は十人程度。そのうち首謀者と思われるのは二人。データを保管している地下へ向かっているようです。残りは、校舎内に散っています。」
「敵の装備は?」
「散り散りになっている人たちは全員、銃器装備だとの報告が入っています。。首謀者の二人は刃物を所持しているようです。ちなみに、今回は裏生徒会の皆さんにだけ行動してもらいます。それでも、無理があるようでしたら、彼らもいかせましょう。」
「了解しました。…よし、おまえら、作戦練るよ!」
由美の掛け声とともに全員が輪になって集まる。
「やはり、ここは全員で一気に敵の殲m…確保に回るべきだと思うのだが。」
「おい、今殲滅って言おうとしただろ。」
「由美さん、落ち着いてください…!」
「じゃあ、とりあえず全体行動ってことで。」
「状況はこちらから随時連絡を入れます。そちらからも情報提供を忘れずにお願いしますね。」
「了解しました。じゃ、いくとしますか!」

「でもさ、どうして侵入者さんたちはこの学校を狙おうと思ったんだろうね?」
ふと爽が疑問を口に出す。確かに、どうしてここに突入してきたのだろう。いくら、裏生徒会という存在が世間に知られていなくとも、ここは私立校。セキュリティが公立の学校とは比べ物にならないほど厳重なのはわかるはずだ。
「どうしてでしょう、やはり計画性のない突発的なものなんでしょうか?」
「さあねえ…。まあ、とりあえずあたしたちは、首謀者を捕まえればいいだけよ。余計なことしてたら南学が盗られちゃうよ?」
「それはいけないわ! 生徒会室のロッカーの中には、秘蔵の私物をいっぱい詰めてあるのに!」
「お前、生徒会室のロッカーをそんなことのために使ってたのか…?」
「でも、南学全体となると私たちだけの問題ではなくなってきますよね…学校の皆さんだって南学にこれなくなるんですから。」
突然、背後から銃声が聞こえてくる。敵に見つかったらしい。
「思ったより早かったわね…。」
「ゆ、由美さん! 前からも…!」
雪が叫ぶ。作戦開始早々、敵に包囲されてしまったらしい。
「さすがにあんな放送を入れてしまっては、学園長が何かを仕掛けようとしているのは感づかれてしまうだろうな。」
「まだわからないわよ? ただの生徒を人質に取ろうとしてるだけかも。」
パンッ
相手のうちの一人が、威嚇射撃のためか銃口を床に向けて引き金を引いたらしい。
「貴様ら、この学園の生徒だな?」
学園の生徒じゃないのに校舎内にいるほうがおかしいだろ、と誰もが思ったが、口に出したものはもちろんいなかった。
「ふむ、お前らには学園長からパスワードを聞きだすための人質になってもらおうか。」
由美が観念した、といった風に両手を挙げて言った。
「ついていってあげてもいいけど、雪ちゃんはそういう銃器が大の苦手なのよね。どうせ、あなたたち、何か訓練でも受けてるんでしょう? 腕に自信がなきゃ、こういうことはできないでしょうし、そんな連中に丸腰の学生が歯向かったところで勝てるわけもないわ。だからそれ、ここにおいていってもらえないかしら?」
「…いいだろう。」
そういって侵入者たちは、武器をその場に捨てる。失敗するだろうとばかり思っていたので、逆にうまくいきすぎなのではないかといぶかしんでしまう。
「では、約束どおり学園長室までついてきてもらおうか。」

しばらく進んだときだった。不意に爽がため息をつく。
「はぁ、。由美さん、もうこの辺でいいんじゃないですかぁ?」
「そうだな、この辺なら武器を取りに帰ることもできないだろうね。」
「…どういう意味だ?」
「何よ、あんたたち本当に何も疑わなかったの? 残念ながら学園長室までついてくるのはあなたたちの方になるわ。」
「どちらかといえば、引きずられていくのほうが正しいだろうけどな。」
どことなく愉悦の色を顔に浮かべながら、薊が由美の言葉を継ぐ。
「んじゃ、さっさとつかまってもらいましょうか!」

それから数分後、彼ら五人の前にはどこからか爽が取り出したロープによってがんじがらめにされた哀れな侵入者たちが転がっていた。
「よし、一丁上がり! さぁ、引きずってくわよ。薊、斑は二人ずつね。」
「えー…俺、嫌ですよー。こんなの引きずっていくとか…重そうじゃないですか。」
「贅沢いわないで、お兄ちゃん…。」
「…うん。お兄ちゃん、贅沢言わないよ。」
その一言で誰もが、こいつって本当扱いやすいやつだなぁ、と再確認したのは言うまでもない。
「1st、1st! 聞こえていますか 」
「学園長? あ、こっちは無事確保しましたよー。これでたぶん全いn…な…そんなまさか! だって、セキュリティは万全なんじゃ…。わかりました、すぐに!」
「…由美さん、さっきから一人でしゃべっていますが…どうかしたんですか?」
学園長との連絡は由美が持っているイヤホンとマイクを通さなければできないため、周りには何を話しているかはわからない。
「我々は今から地下へ向かう!」
「地下の制圧か? それなら、こいつらを連れて行ってからでも遅くはないだろう。」
「そんな悠長なことを言っている場合じゃなくなった! 地下のパスワードが解析されたんだ…このままじゃデータが盗まれてしまう!」

後編に続く

JACKPOT58号掲載
背景画像:空に咲く花

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