合コン

                涼露



 合コンとは、生野高校で冬季に行われる行事、合唱コンクールのことである。決して合同コンパのことではない。

  概要
 合コンは秋の文化祭、春(初夏?)の体育祭と並んで、生野高校の主な行事のうちの一つである。一年生は年の瀬、二年生は年明けにと別々に行う。内容は主に、恋人のいない男子生徒と女子生徒によるクラスの枠を超えた交流会である。これによって新たなカップルが次々と生まれ、見てるだけで熱い恋やいけない関係が育まれていく。決して、自由曲と課題曲の二つをクラス単位で合唱し、その出来栄えを競ったりする無味乾燥なものではない。
  合コン事変
 合コンの歴史は非常に古く、合唱という言葉そのものがなかった頃から続いているのではないかと考えられていた。そのため日本政府は本格的な研究チームを結成し、合コンについての歴史を研究した。これが、合コン事変の発端である。政府研究チームは古代いくの文字の解読に成功したが、その矢先、生野高校が合コンは一九七五年度より開始されていると発表したのだ。これにより、日本政府と生野高校との仲の悪さが白日の下に曝されることになり、世界中が緊迫に包まれた。政府は生野高校との国境防衛のために多数の戦車や、まだ試作段階であった有人大型機動戦士(俗に言うガン●ム)を多数配備した。またこの世界的緊張のために日本国内は不況に陥り、先の軍事費と合わせて、経済的損害は数兆円規模にも及ぶと言われている。中にはそもそも合コンがいつ始まったかを調べるためだけに巨額の税金を使ったことを批判して衆議院選挙に当選したサルやネズミも現れたが、全くの無駄であるというのは誤解である。数兆円で古代いくの文字を解読できたと考えたらそれは堂々たる成果であり、日本政府が全世界に誇るべきことなのである。何故なら、あの有名な女性作家、孫子(そんこ)も著書で「敵を知り己を知れば百戦して殆うからず」と述べているからである。
 ちなみに、事変で全世界が揺れていた間も生野高校は平常授業を行っており、電車や自転車で日本国から登校する生徒も平然と国境である正門や通用門を出入りしていた。

  練習の特色
 合コンはその学年最後の大きな行事ということもあり、各クラスで練習には熱が入る。それは文化祭における劇の練習と比較しても勝るとも劣らないものであり、しかし季節が季節なだけにその練習のおかげで倒れる人の数は文化祭のそれを大きく上回っている。当然朝練も盛んに行われ、高校から程近い位置に住んでいる生徒ならともかく、遠方から通学している生徒にとってそれはまさに苦行であろう。日の昇る遥か前に家を出なければならないのだ。
 合コン決行日の直前になると練習は最後の大詰めを迎え、中には泊りがけの練習を行うクラスも出だす。高校側はそれを大いに推奨しており、泊りがけ練習を行うクラスには風呂代わりにプールが開放される。もちろん、水が張られる。
合コン決行日当日はいかなることがあっても休むことを許されず、朝八時半の時点で登校していない生徒がいた場合は生野高校自慢の教官らが直接生徒の家へ出向き、引きずってでも登校させることになっている。しかし、例年全ての生徒が、風邪で四十度を越える高熱にうなされていても、数名の遅刻者を除き全員が八時半までに登校している。それが生野生である。
 
 採点基準
 合コンの採点は、各クラスより一名ずつ選出された生徒と、数名の教師によって行われる。生徒審査員は、各々の判断によって厳しく付ける傾向にある。対して教師審査員は、各々の趣味に合うか合わないかで付ける傾向にある(ここは某先生が実際に仰ったところに拠る)。
 ぶっちゃけ音楽を担当している教師以外は生徒審査員も教師審査員も大半が素人なので、微妙な音程やハーモニーよりも大きな声であったり歌っている際の顔だったりが採点に大きな影響を与える(と、実際にあまり音楽が分からないと自認してらした教師審査員が仰っていました)。
 なので、高得点を狙おうと思えば、とりあえず大きな声で、そして楽しそうに歌うことである。ただし、楽しそうにといって手を取り合って歌ったり、全員で横に揺れながら歌ったりしたら、前述の通りそれが趣味に合わなかった教師審査員に大きく減点される可能性もある。また逆に、それを好しと感じる教師審査員に良い点を付けてもらえる可能性もある。当然、やり過ぎは生徒審査員に『不謹慎』との理由で減点対象にされかねない。

もっと簡単に高得点を狙える方法がある。
事前に金銭等で審査員を懐柔しておくことである。
将来的には高級外車や貴金属、豪邸などが賄賂として飛び交うようになるのでは、と予想されている。
 賞品
 各部門で三位以内に入ったクラスには賞品が贈られる。課題曲の部・自由曲の部三位にはクラスに鉛筆一ダース、二位にはクラスに筋●マン消しゴムランダムに四個、一位には全ページに金箔が貼られたノートが一冊贈られる。また、めくりの部三位にはクラスに十二色の色鉛筆一セット、二位のクラスには百八色の色鉛筆が一セット、一位のクラスには「二百五十五色」と書かれた金ばかり二百五十五本並ぶ色鉛筆が贈られる。また、最優秀指揮者賞に輝いた生徒には『これからも指揮をとり続けよ』との大命と共に黄金の万年筆が贈られる。
 そして、総合銀賞のクラスには食堂の百円割引券がクラスの人数分与えられ、総合金賞を獲得したクラスにはエー●フラ●ス航空より、パリ・ヨーロッパ八日間旅行挑戦権が与えられる。挑戦権というからには試験が課されるのだが、試験自体は例年簡単なものである。問題は旅行券がペアで七泊八日なことで、つまりその二席を巡って血みどろの戦いが繰り広げられたり広げられなかったりすることである。時期が時期なだけに、この戦いで負傷、入院し、期末テストを受けられず留年ということになる可能性もあるからである。成績がマズイ人はこの戦いに加わらないことをお勧めする。

 ママーズ カンタービレ
 一九九五年度より保護者(母親)によるコーラスも行われている。あまり昔懐かしすぎる歌を歌うと生徒にポカーンとした顔をされ、かといって最新の曲なんかを歌うと会場全体に失笑されかねない。そのあたりの加減が今後の課題となっている。
 参加者は皆それぞれに仕事をしていたり家事に追われていたりということから、練習時間の確保が難しい。そんな中で本番までに完成させてきていることは、賞賛に値するだろう。
 しかし、高校生という微妙な年齢である生徒にとっては「自分の母親がステージで歌っている。しかも笑いものになっている」ということはとてつもなく恥ずかしいことであり、基本的に「あの……右から四番目! うちの母親!」などと言える者は皆無である。このあたり、うちの母親みたいにプリントを見せるまでもないような人と違って参加している保護者の方に、同情の念を送っておくべきなのだろうか。

この項目「合コン」は、作者がユーモアを利かそうとした可能性もありますが、微妙に自重したおかげで残念ながらクソの山です。より愉快にできるという方がいらっしゃるもんならやってみやがれ、思った以上にきついぞ。