千里たつき パニティア十貴族の家の一つ・アキフォーナ家のお嬢様は、代々“才色兼備”なのだそうだ。 一番目の姉さまが亡くなってから、二番目の姉さまはしばしばため息をついてはこぼしておられた。わたしは姉さまみたいにお勉強が好きではないのに、と。そして領民の一人と駆け落ちしてしまわれた。 お母様が“お嬢様”を三番目の姉さまにお継がせになったのはその後しばらく経ってからだったけれど、アキフォーナ家当主兼自治領主という重圧に耐えかねたのか、姉さま―――前当主様は身体を壊してしまわれた。 そして、とうとうわたしにお鉢が回ってきた。 お飾りの女王と十貴族の国・パニティアとは異なる世界に暮らす、わたしの元に。 アスポロナ・ユイカがお嬢様になる十一年前、アキフォーナ宗家の幼い四女は側近の者から告げられた。 「エリサベス、異界へ行ってみませんか」 と。 そのとき彼女は、幼いながらも賢くこう理解した。 「わたしが邪魔なのですね、ロジャー」 「な・・・そのような話を、誰が」 「だれに言われなくてもわかりますわ。上には三人も姉さまがいらっしゃるし、“小賢しく”こんなことを口にするわたしをあなたたちがうるさく思っていることくらい」 「・・・・・・」 利口で容赦のない少女に、正装の側近は絶句する。 「執務のお邪魔なんですってね」 「違います、我々は断じてそのようなことを考えておりません」 「本当に?」 精巧なシリコン人形のようによく出来た無表情。 「・・・・・・本当です。エリサベス」 危うくそのビー玉のような目に吸い込まれそうになって、彼はようやくそう答えた。 そう、と少女が呟くように言った瞬間、先ほどから雲行きが怪しかった窓の向こうの空から、ポツポツと雨が降りだした。 「わかりました、行きますわ。大好きな姉さま方のお邪魔になりたくはありませんし、丁度わたしも」 この日初めて無表情が崩れ―――口角だけが動き―――少女が笑った。冷めた目のまま。 「あなた以外の分家の者や当主様など、顔も見たくないと思っていましたから」 窓の外を見たエリサベスが水術で移動するなら急ぐべきだと言ったため、世界の境界を跨ぐ大規模な移動の術はこの会話の二時間後に行われることになった。 「エリー・・・本当に行ってしまうの?」 「はい、リリー姉さま。・・・ごめんなさい」 少女は側近一人だけを連れて、姉たちの部屋を巡り別れの挨拶をして回った。現当主―――実の母親の部屋は通り過ぎた。 「いつでも戻れますもの。もちろん戻りたくはありませんし、あちらもそれをお望みにはならないでしょうけれど」 だから挨拶などしない、と少女は言った。 結局少女の母は見送りにも来ず、しっかり務めを果たせといった内容の書付を寄越しただけだった。 異界で自分を待ち構えていた屋敷の一室で、上等な羊皮紙を破りながら呟いた。 「務め・・・」 異界へ遣られた少女には、アキフォーナ家の者としての務めがあった。 「アスポロナ家の当主の『証』と、その持ち主を見つけること」 隣の領地を常に狙う母親の考えそうなことだ、とエリサベスは思った。大方奪ってしまうおつもりなのだ。 その持ち主がどの家から出るのかわからないが、『証』の在り処なら貴族の勘で判る。 「ロジャー」 部屋の中から呼びかけた。すぐに返事がある。 「はい」 「雨があがったら、わたし出かけますわ」 「畏まりました。・・・気に入ったテディベアがありましたら言ってください」 「ええ」 彼はたいそう気の利く従者だ。幸せな嘘も、とても巧い。 「ロジャー、これを」 ショーウィンドウに飾ってある、少女には抱えるのがやっとなほど大きなテディベアを指して言った。 「畏まりました」 先に買った片手で持てるほどのものは自ら抱き、小さな町の中を歩く。 「ごらんよ、あんな高そうなぬいぐるみを買い与えるなんて」 「あれは親じゃないね。きっとあの子はどこかのお嬢様なのさ」 道の反対側を歩く中年の女たちがささやく声が聞こえ、少女はふいと顔を上げた。首を傾け、女たちの方を見やる。 「ちょっと・・・!」 「な・・・・・・」 その目が余りに冷めていたので、女たちはそそくさと逃げるように去ってしまった。 「・・・エリサベス・・・・・・」 「わたしは、お嬢様などではありませんわ」 しばしばそんな事を言い、従者たちを困らせたのだ。 それからしばらく、エリサベスは知らない町を黙々と歩いた。ようやく止まったのは十分後、小さな町中の小さな公園の前に来た時だった。 「ここに?」 「いいえ、ここに在るわけではありませんわ。ただ来たかっただけですの」 側近は気落ちしたが、少女は普段よりむしろ高揚しているように見える。 「ここからあちらの・・・パニティアの香りがしますもの」 彼女は公園に入ると、まっすぐにブランコへ向かった。 「エリサベス?」 側近は戸惑いながらもついて来る。 エリサベスはブランコの柵の外から、一人で立ち漕ぎをする同年代の女の子を見上げ、目を細めて微笑した。 「こんにちは」 「こんにちは!」 しっかりした返事が返ってきた。この年頃の女の子にしては珍しい、と側近は思う。 見知らぬ子は漕ぐのをやめ、 「わたし、唯加。あなたの名前は?」 と訊いてきた。 「・・・わたしは枝理紗よ」 僅かに躊躇ったが、すぐに答えた。枝理紗というのは、エリサベスのこの国での名前である。 「そっか。よろしくね、枝理紗ちゃん」 止まったブランコに座り、唯加と名乗った子は笑った。 そんな様子を、枝理紗ことエリサベスの側近はほほえましげに見ていたが、彼のほうにも話しかける人がいた。 「どうも、こんにちは」 チェックのシャツに眼鏡をかけた痩身の男だった。歳は三十代半ば頃か。 側近はそんな具合に品定めするかのように見回してから、軽く会釈する。 「あの子、唯加の父親です。あなたは―――」 女の子の父親は、皺一つ無い背広を見て言った。 「保護者の方ですよね、あの子の。可愛らしいですね、枝理紗ちゃんでしたっけ」 「そうです。ありがとうございます」 自らの幼い主を可愛いと言う言葉に、側近は気を許してしまいそうだった。父親の方は枝理紗のレース使いのワンピースを見て、さも感心したように言う。 「あの洋服なんて『Alice s Cookie』のでしょう? 僕、仕事で服飾にも関わるんですけどね。いやぁ、まるで何処かのお嬢様だ」 その時女の子にブランコの乗り方を教わっていた枝理紗が、またふいとこちらに顔を向けた。 冷めた目でしばらく父親を見ていたが、近くで側近が困っているのに気付くと、何もなかったかのようにまた女の子と話し始めた。 「では、僕はこれで。下の子が砂場で遊んでるもんですから・・・」 枝理紗の視線に全く怯まなかった父親は、下の子が心配だと言ってまだ幼い娘を残し去って行った。 側近が眉を潜める。 (子どもを一人で遊ばせるとは・・・。この子はしっかりしているから平気だろうが) 「夜次郎、これを」 必要ないと言ったのに無理矢理つけられた日本名を呼ばれ、側近は苦笑しつつもテディベアを受け取る。ブランコを漕いでみるから預かって、ということらしい。 「ねぇ、やじろーさんは枝理紗ちゃんの“しつじ”?」 「ちがうけど、だいたいそんな感じよ」 そう答えた枝理紗は、女の子の支える鎖をしっかり握ってブランコに腰かけ、教わったとおりに地面を蹴った。 「動いた!」 「すごーい!」 少女たちの歓声が響き渡る。 そんな時別のブランコでは、 「ずるい、ぼくが先にまってたのにー!」 「おまえがトロイのが悪いんだろ!」 男の子たちが交代のことで揉めているようだが、女ならともかく男の餓鬼には興味無いで通している側近は何とも思わなかった。 思わなかったのだが、 「ちょっと、あんた!」 はっきりとした声が響いたので、結局そちらを見ずにはいられなかった。 声の主は、先程枝理紗と仲良くなった女の子だった。片手を腰に当て、もう片方でぴっと体格の良い男の子を指さしている。 「わるぐち言っちゃだめでしょっ。順番もちゃんとまもりなさい!」 「な、なんだよ・・・おまえ」 「唯加ちゃんの言うとおりですわ」 女の子にまで突っかかろうとした男の子は、その後ろで静かにブランコを漕ぐ枝理紗の視線をひたと受け言葉を飲み込んだ。 「・・・わ、わるかった・・・」 体格に不似合いなか細い声で謝り、男の子は力なく鎖を手放した。 「うん、いいこね」 女の子が満足げに笑った。 「貴女があんなに心を許すのは、あの子くらいのものでしょうね」 夕食後側近が言うと、エリサベスは無表情に頷いた。 「よく分かっていますわね、夜次郎」 「お願いですからその名前で呼ばないで下さい・・・」 彼女がごく稀に言う冗談を、側近はいつも扱いかねる。 「パニティアの香りがしましたの。ロジャー、あの子あちらの出身かしら?」 「いいえ。パニティア貴族の血が色濃く残っているのでしょう、おそらくは」 「そう」 大きなテディベアの頭を撫でながら、少女は呟く。 「唯加・・・・・・。とても『お嬢様らしい』子でしたわ」 ビー玉のような目に諦観と強い羨望とが横切るのを、側近は見た。 「わたしは決して・・・お嬢様には選ばれませんもの」 気の利く従者は、黙って紅茶を淹れていた。 その数日後、枝理紗ことエリサベスは再び側近を従え、小さな町の中を歩いていた。 「エリサベス、今日はどちらへ?」 「あの子のもとへ」 少女は初めそれだけ告げたが、側近が首を捻るのを見ると 「このあいだの子ですわ、貴族の血をもつしっかり者の」 困っているように感じますの、と付け加えた。 少女はやがて、小さな町中の小さな社の裏手に回り、雉鳩の奇妙な鳴き声の響く雑木林へ踏み込んでいった。枯れ落ちたばかりの葉は踏むと柔らかい絨毯のような感触を残す。 「・・・・・・エリサベス・・・!」 側近がその気配を感じたのは、キジバトの鳴き声が突然に途絶え林が静寂を迎えた時だった。 「あなたにもわかりますか、夜次郎。貴族の『証』の声が―――」 薄明るい林の中を、小鳥たちがバサバサ音を立てて飛んでいった。 「このすぐ先にあの子がいますわ」 歩調を緩めず少女は言った。 「そして『証』も」 「あの子はパニティア貴族ではありませんが・・・」 また奇妙な鳴き声がし始める。 「だからわたしは思うのです。あの子こそ『証』の持ち主なのでは、と」 「しかし先日は持っていませんでした」 「・・・そうですわね、夜次郎。では今日、この時に受け取るのかもしれませんわ」 側近は賢い少女の考えに、感心しているようだった。 「見とどけましょう」 エリサベスが言った。 ―――どうしたの、迷子さん。 どこからか大人の女性の声がし、女の子は涙に潤んだ目を上げた。 「・・・どこ?」 ―――ここにいるわ。 女の子は何度も瞬いて涙を目の奥へ仕舞いこんだが、視界がぼやけなくなっても森の中に声の主の姿は見えなかった。 ―――ここよ、ここ。 声と共に、ざわ、と林の木々が囁いた気がする。 「そこに、いるの?」 女の子が訊ねると、女性の声は突然明瞭になった。 「ええそうよ、ここ」 「あ! みえたよ!」 女の子が叫ぶ。 先ほど囁いた木々の間からぼんやりと光が差していた。そこに美しい女性が立っているのだ。 彼女は動き辛そうなロングドレスの裾をちょっと摘み、優雅に一礼して口を開く。 「初めまして、可愛いお嬢さん。わたくしはリディア。あなたのお名前は?」 「あ・・・阿隅唯加です。はじめまして」 女性の姿がよく見えないのか頻りに目を擦りながら、女の子は答える。 「アス、ミ・・・・・・」 女性が思案げに繰り返し、一つ頷いた。 「唯加、どうしてこんなところにいるのか、教えてくれるかしら?」 女の子がうつむく。 「迷ったの・・・」 すると、ふいに女性が女の子に近付いた。とても長く艶のある金髪を耳にかけ、木々の間を指して言う。 「では唯加、こちらへ行きなさい。後戻りさえしなければ必ずたどり着けるわ。あなたの帰るべき場所へ」 一生忘れられないような、綺麗で優しい声だった。 「おうちに帰れる?」 「ええ。大丈夫、あなたはただ自分のペースで歩けばいいの。あとはわたくしが」 女性はスプレーマムの花のように微笑んだ。 「いっしょに来てくれるの?」 「いいえ・・・わたくしは行けないの。その代わり、」 彼女は女の子の手を両手で覆うように握り、何かを手渡した。 「お守りをあげる。これがあなたと一緒にいる限り、わたくしがあなたの助けになるわ」 女の子は手の中に残された少し重たい綺麗なものをじっと見つめて、 「ありがとう。ずーっと大事にします!」 と、嬉しそうに言った。 「わたし、はやく帰らなきゃ。おかあさんと兄妹がまってるの。おねえさん、さようなら」 そう言うが早いか、女の子はくるりと背を向けた。女性に会う前の泣きそうな顔は何処へやら、しっかりとした足取りで教えてもらった道を駆けてゆく。振り返ったり立ち止まったりは、もちろんせずに。 木々にとまった小鳥たちが、女の子が駆け抜けるのに合わせて飛び立った。 ―――大きくなったらまた会いましょう、運命の子。 追いかけるような女性の声が、優しく響いた。 戻ってきた小鳥から会話を少し聴き取ると、枝理紗は術を解いて放してやった。 「終わりの方しか分かりませんでしたね」 飛び去る小鳥をビー玉のような目でじっと見送る少女に、側近が言う。 「ええ。でも女の人があの子に『証』を渡したのは分かりましたわ。きっとあの人はユーリディア卿・・・今のアスポロナ家当主」 「そう考えるのが妥当ですね。宗家の方々に報告しますか」 「いいえ」 側近は驚いた。 「わたしにはあの方たちのすることなんてどうでもいいのです。お手伝いするつもりもありませんわ。それとも―――あなたが言いますか、ロジャー?」 少女と目が合った側近は、その真意を測りかねてしばらく黙した。 彼は気付いていない。この幼い少女がずっと、一番そばにいる自分を試していることに。 「・・・いいえ。エリサベス」 優秀な従者らしい答えを聞いて、それでも少女は丸く綺麗な目を見開いた。その目を確かに横切ったのは、微かな喜悦。 「そう。では『証』をもつ女の子をみつけたことだけ言いましょう」 屋敷に戻ってから従者の一人に風術を使わせ、エリサベスはアキフォーナ宗家の人々に声を届けた。通話の中で新たな役目を言い渡される。 「その子をずっと見張っているように、ですって」 話を全て聞いていた側近にも、わざとらしく繰り返して言った。 「しかし・・・貴女をこちらの公立校には通わせられません」 「高校生になるまでは、とおくから見守るしかありませんわね。・・・あの方たちがわたしにまがい物の戸籍をつかわせようとおっしゃるのならば別ですけれど」 「戸籍の問題などではありませんよ」 渋面を作る主思いな側近を、少女はただ見ていた。 この国の公立校は、清潔さと安全性が充分とは言えない。彼はそれを言いたいのだろう。 「・・・ありがとう、ロジャー」 彼は本当に、気の利く従者だ。 それから十年と少しの間、エリサベスはロジャーと呼ばれる側近と数人の従者たちと共にこの小さな国で暮らし、『阿隅唯加』を見守り、監視した。 彼女は唯加の記憶から自分が消えることを望んだ。その理由は側近にさえ分からなかったが、ともかくエリサベスと唯加とが幼い日のただ一度の出逢い以来、顔を合わせることはなかった。 やがてエリサベスは『秋保枝理紗』というこの国の人間として、監視対象者と同じ高校へ入学した。有名私立大学の付属校だった。 『これより、第××回星菫学園高等部入学式を行います』 入学式が行われる綺麗な大ホールには新入生や教師の他に、一部の新入生に仕えるメイドや執事も控えていた。枝理紗の側近もタキシードを着込んでそれに混じる。ちなみに一部の新入生に配慮して、守衛がいたるところに配置されている。 お金持ち校というほどではないが、枝理紗にとっては実に入りやすい学園だった。 「こんにちは」 式場へ入る直前、枝理紗はとうとう耐えかねて後ろに並ぶ唯加に話しかけた。出逢ってから十数年、ずっと離れて見守るだけだった“友達”に。 出席番号は近くなるよう考えて名字を付けたし、クラスは受験時に選んだコースで決まる。枝理紗は同じコースを選んだけで、唯加に誰より早く近づけた。 「はじめまして、阿隅唯加です。…あれ?」 振り返った枝理紗を見て、唯加は首を傾けた。 「私は秋保枝理紗。・・・どうしたの?」 「秋保さん・・・前にも、会ったことあったかなぁ?」 「え・・・」 高鳴る胸、震える唇。 精一杯、微笑った。 「・・・うーん、どうかしら。覚えてないわ」 肯定も否定もできなかった。 「そっかー。じゃ、やっぱりはじめましてだね」 「そうね。・・・これからよろしく、唯加」 枝理紗の言葉に、唯加は瞬いた。そして笑う。 「うん。よろしく、枝理紗!」 「覚えていたわ。わたくしを」 そう言って、二年前本当のお嬢様となった娘は吐息を洩らす。それを側近はクリーム色のカーテン越しに聞いた。 「お嬢様をですか? 阿隅唯加が?」 側近はドアノブにかけた手を止め、振り返らずに訊ねた。 「ええ。でも・・・初めての友達になれたわ。わたくしにとっては一生の内で、唯加にとっては高校生活で、初めての友達」 呟くような声と共に、浴槽から湯を掬う音がする。側近はドアノブを捻った。 「本日はお疲れ様でした、お嬢様。・・・私はこれで失礼致します」 ざばぁ、という水音から逃げるように扉を閉めた。 「今更気を遣っているのかしら。変なの」 浴槽の中に立ってシャワーを浴びながら、エリサベスはそんな感想をぼやいた。 一方彼女の側近は、扉に背中を預けて首を振りつつ呟く。 「『初めての友達』・・・エリサベスはそれに成りたかったのか? だから今まで、阿隅唯加にお会いにならなかったというのか?」 分かっているつもりだった。いや、分からないままでも構わなかったのだ。秀麗で聰明だが自分の意思を通そうとはしない、愚かで哀れな、お人形のお嬢様の考えなど。 「阿隅唯加・・・か」 主に対する、あの娘の影響力を痛感させられる。 何故焦るのだろう。今更になって、可愛らしい人形を取り上げられることに怯えているのか。まだそれはほんの可能性しか見えていないのに。 成り行きで当主になったエリサベスに、異界に住み続けることを勧めたのは彼だった。彼女がそれに頷いた時、愚かしくも美しい人形の誕生に悦んでいないで気づくべきだったのだ。彼女の持つ、あの娘への執着心に。 「とんだ誤算だな・・・やってくれるよ。アスポロナの当主候補も、我が愛しいお嬢様も」 アキフォーナ家のお嬢様お気に入りの側近は、自嘲気味に笑った。 ◆あとがき この話は私の連載「前代未聞のお嬢様」の番外編で、本編より過去の話となっています。 やっぱり連載が最終回を迎えたら続けて番外編を書くべきだろうってことで書きました(ぇ 本編、特に第1話と第3〜5話(つまり2話以外全部)を読まないと意味が分からない箇所もあります。 また今回は久々に読み手をほとんど意識せずやりたいようにやったので非常に電波な展開になってます。 サディスティックなフェミニスト(ロリコン?)の40代男性が苦手な方も注意注意。 ってかもう読んでしまった方はすみません。反省はしてますが後悔はしません。 ページデザインを見ても分かるように、本編とは一線も二線も画してる感じです。 ともかく、読んでくださってありがとうございました! JACKPOT61号掲載 題字フォント:懐遊体(idfont)+明朝体 背景画像:Sky Ruins様 |