箕北 悟史

「ねえねえ、私もサッカーに混ぜてよ!」
「だめだよ、おまえ女だし、女は向こうで砂遊びでもしてろ」
小学一年生のみさきは男の子たちのサッカーに混ぜてもらえませんでした。
「ええ、いいじゃんかー。なんでだめなのよー」


「ただいまー」
「あら、おかえり。そうだ、今日みさきに新しい服買ってきたわよ」
新しい服はピンクのフリフリのついたスカートでした。それを見ると、
「あたし、スカートなんか大嫌い! すーすーするし、歩きにくいし! なによなによ、男の子だの女の子だのって! そもそも女の子はサッカーしちゃいけないだの、スカート穿くだのなんて誰が決めたのよ!」
みさきはおかあさんに言いかかりました。おかあさんは困ってしまいました。
「今はいいかもしれないけど、中学に行ってから制服はスカートでしょ。嫌でも穿かなくちゃいけないのよ。」
「なんで、女の子はスカートなんて穿かなくちゃなんないの!誰が決めたの?」
「う〜ん……」


次の日、みさきは赤いランドセルを背負って・・・ではなく、卒業した兄の黒いランドセルを背負っていきました。
当然先生に、
「あら、いつものランドセルはどうしたの?」
「ねえ、誰が女の子は赤いランドセルだなんて決め付けたの。」
「それはねえ……」
先生も困ってしまいました。
 

 そこで、その日の道徳の時間先生はみんなを集めて黒板にこう書きました。
「男の子らしさ 女の子らしさ」
「みんな、『男の子』しかしないこと、『女の子』しかしないことって何があるか分かるかな?」
しばらく悩んでみんなが次々に、
「男の子はサッカーしたりするけど、女の子はしない!」
「女の子はよくシールを集めたり、人形で遊んだりするけど、男の子はふつうあまりしないと思う」
「男の子は自分のことを『俺』とか言うけど、女の子は『うち』とか『わたし』とか」
「女の子はスカート穿くけど、男の子は穿かない!」
「男の人はかっこいいとか言われるけど、女の人はかわいいって言われる」
「女の子は赤いランドセルだけど、男の子は黒いランドセルとか」
「あたしは水色がいいって言って水色にしてもらったけどね」
「女の子は髪を伸ばしてくくるけど、男はあまりしない」
「大人の女の人は化粧をよくするけど、男はそんなにしないよね」
本当に挙げればきりがないほどです。子供達はこんなに小さいうちから「男」「女」に縛られているのです。


先生は言いました。
「はい、分かりました。けれどもみんな男の子らしさ、女の子らしさって本当に必要なことなのかな?」
みんなは悩み続けました。先生は言います。
「別に特別男の子が男の子らしくしたり、女の子が女の子らしくしたりする必要はないんじゃないかな。もちろん、それがだめだとは言わないよ。おしゃれの好きな女の子もいるし、それで自分が自分らしくあることができるなら、先生はそれが一番素敵なものだと思う」


 みさきはクラスのみんなを見渡してみました。
 ちょっとやんちゃでいつも先生に迷惑をかけているよしのり君。茶髪なんだけれども本当はすごく心優しいけんた君。髪の毛が短くてスポーツが万能でいつもかっこいいと言われているなつきちゃん。かわいいけど恐竜のこととか昆虫のことに詳しいゆいちゃん。いつもみんなの笑いをとって場の空気を和ませてくれるまさゆき君。
 十人いれば十通りの個性がある、そのことになんとなく気付きました。「男」と「女」って分けて決めつける必要はないのかもしれません。


 次の日、みさきは赤いランドセルを背負っていきました。自分らしさを表現する手段はいくらでもあります。そしてサッカーをしている男の子達に言いました。
「私も混ぜて!」

作者コメント

松原市役所から依頼を受けて、部員みんなで作った人権啓発絵本企画に提出した原稿です。
絵本の原作には選ばれませんでしたが、その後、松原市役所が提出された原稿全てをまとめた冊子を作成してくださるそうです。
ちなみにその絵本の絵は美術部さんに描いていただきました。
絵本としてできあがった物のあまりの出来の良さに大変驚きました。
(掲載号:JACKPOT48号 使用書体:あずきフォント 使用素材:自由に使える背景用写真