宿替えm@ 「はあぁっ!!」 バシィンッ 「やあぁっ!」 「ふう…」 俺は榊学園高等部の二年で剣道部の獅子堂聖。まあ、その剣道部も俺が作ったようなものなんだが……。 これは俺様の素晴らしい活躍を描いた作品であ…… バシィンッ 「いってぇなぁ、もう」 「先輩が嘘八百並べるからでしょうが! そんな暇があったら練習してくださいよ」 「はいよ〜」 まったく…。あっそうそう、とりあえず自己紹介。僕は… 「はいは〜い。あんたも練習しに行きましょうね〜」 ちょっ渚、僕まだ自己紹介もしてない…。 「そんなこと言ったって私たちには時間無いんだからしかたないでしょう?」 まぁそうだけど…、ということで僕の紹介はまた後で。 ――三ヶ月前…… 「ううぅ、みんな賢そうだなぁ。こんなんの中でやっていけるかな」 僕は逢沢光。この学園は中高一貫だけど僕は高等部から編入することになる。だから今とてつもない緊張に見舞われているわけで…。 「あ〜もう!クラスでどう話し掛けたらいいんだよ〜」 なんて言っているうちに入学式が始まった。 「ねむ…」 やっぱりどこでも校長の話ほどつまらないものはない。そんななことをいまさらながら感じていたとき、それは(僕にとっての転機は)突然やってきた。 (なんだこの子、すっげぇかわいい…) ってなに考えてんだ俺は。今は、つまらなくても校長の話を聞かなくちゃダメだろ…。 しかし、どう考えてもそれは一目惚れだった。 その後幾度となく探してみたが、なにせクラスが多い。(一学年だけで十二クラスもあるのだから…)それに教室も有り余るほどある。 もうあきらめるしかない。そう思い始めたころ、偶然は起きた。 「やっべぇ、遅刻かも」 誰も起こしてくれなかった。それもそうだ。今僕はアパートに下宿している。(ちなみにこれが高等部から編入することになった主な原因である。実家は果てしなく田舎にある) というわけで、アパートの部屋から飛び出したところ… 「いったぁ〜い」 「ごっごめん大丈夫?」 いや、まあびっくりしたね、あのときは。まさか入学式のときの美少女がまさか隣に住んでいたなんて。 世間は狭いというかなんというか…。 「もうあんたどこ見てんのよ。あぶないでしょ!」 まさかそんなことを言われるとは思わなかったから、つい言い返していた。図星というのもあったかもしれない、われながら恥ずかしい話だ。 「そっちこそどこ見てんだよ」 「あんた自分のこと棚に上げる気?」 ホント今から思うと恥ずかしいったら無いな。 「あたしにはね、剣道で全国に行くっていう夢があんのよ」 あれ、でもうちの学校って… 「そうなのよ。あたしもさすがにまさかと思ったわよ、うちの学校に剣道部が無いなんて」 そうなのだ。ふつうどこの学校にも剣道部なんて(どんな状態にせよ)ありそうなものなのに、うちの学校にはそれが初めから無い。しかし、彼女は剣道をやろうとして困っている。 僕だって男だ。彼女のそんなところを見ていると、どうしても助けたくなってしまう。でも… (僕に何ができる?) たいして何かが得意なわけではない。ましてや剣道なんて、なにがなんなのかさっぱりだ。 そんなある日のこと。 「あっ、先輩。お久しぶりです」 「お〜、光か、元気してたか?」 この人は前の方にも出てきてたけど聖先輩。とはいっても小さいころからの付き合いだからこんな会話をするのは学校の中だけだ。 「はい、まあ…」 「? どうかしたのか?」 まあ、この人に相談しても意味ないだろうな…。そう思わせるだけのことを幾度となく繰り返してきた人だから。 そんなことを考えていたところ、 「あっそうだ。今度さこの学校に剣道部作りたいな〜、なんて思ってんだけど助けてくんない?」 この人は……。いつの間にどこからあのときの会話の情報を手に入れたんだろうな。ホントに地獄耳なんだから…。まあ少しぐらいは感謝しようかと思うこともあるけどね。でも… 「例の彼女も来てくれるかな」 これが目的だもんな〜。見た目は良いと思うんだけど性格に問題だらけだからな〜。 「でも、大丈夫なんですか? いろいろ申請とかあるんじゃ…」 「そんなもんはとっくの昔に終わらせた」 うわ〜。この人のむかしってどのあたりなのかな? スッゲェ気になる。今の会話からすると3日前ぐらいから昔になるらしいが…。 「お前、今すっげぇ失礼なこと考えてたろ」 やっぱりこの人に隠し事はできそうにないな…。 「で、結局手伝ってくれるわけ? 剣道部」 やっぱこの人好きになれないな。絶対に確信犯だ…。 「わかりましたよ。やればいいんでしょ、っていうかやるしかないんでしょ、剣道」 「ありがとうな〜。そう言ってくれるって信じてたぜっ!」 ――その後、というか現在 「先輩、あんたねぇ…」 はっきり言ってびっくりだね。自分にも、先輩にも。まさか自分に剣道の才能があったなんてね〜。そんでもって先輩がここまで下手だったとは…。 「いくらなんでもひどすぎなんじゃないですか? 誰でもできますよ、防具つけるぐらい…」 もはや手のほどこしようもないですねこれは。 そうそう。結局わが剣道部には五人もの部員が集まったのである。とはいっても… 「みんな知ってる顔なんですが…?」 全員が幼なじみだなんて笑えんジョークだよ。なんかもっと集められんかったのかな…新しい部員。 「なによ、文句があるわけ? 少なくとも私はやりたくてここに来たんだけど…」 と、渚。まあ幼稚園からの付き合いだ。苗字は言わん、なにかとクレームが来そうだから。 「まあ俺はかわいい子目当てだな」 こいつは高宮健吾。こいつも幼稚園からの付き合いだ。 「おいおい、お前はホントに強いから試合で勝てば何とかなるって」 なんて言っているこいつは金剛猛。いつだったかは忘れたけど、いつのまにか友達になっていたという不思議なやつだ。 でも、まだこのころ彼女はここにはいなかった。 「どうなってんのよ。来るんじゃなかったの? 彼女強いんでしょ?」 そう、渚の目的はここにある。こいつはもともと薙刀をやっていて、強いやつと見るや戦いを申し込む癖がある。それの犠牲者は数知れず。 「そんなこと言ったって、たしかに全国目指してるって言ってたけど、ホントに強いのかはしらないよ?」 「でも強いかもしれないんでしょ? ならやってみる価値はあるじゃない」 「……失礼します」 ドキッ、 (ま、まさか…) 「あのぉ〜一年の高杉奈那子です。剣道部ができたって最近聞いて来ました」 『っ〜〜よっしゃ〜! キタァーー』 ってあれ? 奈那子ってどこかで…。 「久しぶり、八年ぶりかしら? ミッくん」 なぜみんなして僕のほうを見る? 僕は何も身に覚えが…あれ? 「奈那子…ミッく……ああっ!! ナナちゃん?」 思い出した。たしかに八年前、僕はこの子と会ってる…というかむしろ思いっきり遊びまくってた気が…。 「そーいやお前そのころ付き合いが悪かったよな?」 と、健吾。 わかった、思い出してきたぞ。こいつらに会わせるとろくなことにならないと思って、会わせない様にしてたんだ。 いきなり奈那子、ナナちゃんが引っ越すことになって…。たしか、手紙出すなんて言ったんだっけ。 「それなのに結局連絡も何もしなかったのよね〜?」 「まじかよお前、男としてやってはいかんことを…」 と、聖先輩。 うるせぇ。あんたにだけは言われたくねぇよ。 「っていうかもしかしてミッくん今になって思い出してるの? わたし初めからわかったのに」 しかたなかろう。言い訳にもならんが言った約束をすぐに忘れるような記憶力なんだ。 「…まあいいわ。付き合いましょ」 「…………はい?」 「いいから行くわよ!」 「お幸せに〜〜」 って先輩助けてくださいよ。僕まったく話が読めないんですが。 「ああ俺奈那子ちゃんから頼まれてたの。光と会わせて欲しいって」 なるほど。一言でとてもわかりやすい説明でしたよ先輩。つまり、すべては台本の上で進められていたわけですね。 「ちょっとちがうよ? 少なくともここにいる幼なじみの諸君は何も知らなかったからねぇ」 ふうん、そうなんだ。ああ、もうなんかどうでも良くなってきた。 「あっ、あいつはもしかして…」 「ミッくん知ってる人?」 「いや知ってるというか、あの人だろ、二年前に学園中を巻き込む伝説の騒動を起こした小宇坂って人。隣でくっついてるのは恋人じゃなくて妹らしいけど。たしか僕たちと同学年だって先輩に聞いたことあるな…」 すると向こうも視線に気づいたらしい、苦笑しながらこちらに近づいてきた。 「お互い女の子に苦労するね。でも、ぜったいに女の子を傷つけちゃダメだよ?」 「あ〜! お兄ちゃん人のこと言えるの? 私のこと…」 「はいはい、わかったから。じゃあね」 その後ろ姿を僕らはしばらく眺めていた。 「なんか、とりあえず兄妹だよね、あの雰囲気」 「そうだな……」 「さて、我らはとりあえず第一の案件をクリアしたわけだが。まだ問題が山積みになっている。つまり……女子部員が二人しかいないということである」 「別にいいんじゃないの?」 たしかに猛の言うことは正しい。別に今はこれ以上の人数は必要ないと思うんだけど。 「お前ら男子はどうでもいいんだよ! でも女子は団体戦に出られないだろ。五人いるんだよ五人」 男子も五人はいないんですけど…と言おうかと思ったけど、先輩の考えていることがわかった気がしてやめた。どうせろくなことじゃない。 「それじゃ、探しにいきますか新入女子部員」 「男子もですよ、絶対に」 でもまあとりあえず、 『いくぞっ全国!!』 終わり
この話にほんの少し出てきた小宇坂くんの話も連載したりしてます。まあこれから始まっていくんですけど…。そちらもよろしくお願いします。 2008年文化祭特別号『ff』α掲載 背景画像:10minutes+様 |