宿替えm@ ※注意――はじめに この話は、出来る限り初めての人でもわかるように構成しているつもりですが、それでもわからない所がたくさんあると思われます。よって、前作を先に読むことを強くお勧めします。 ではそのところを理解していただけた方は本編へどうぞ。 1 その日も、いつものように騒がしい朝がやってきた。 「お兄ちゃん〜。早く起きなよ〜」 起こすのはいつも妹。 「だから、腹の上に乗るのはやめろ、っていつも言ってるだろう。・・・・・・・・・むにゃ・・・」 起こされるのはいつも兄。 この構図は、二年前とちっとも変わってはいない。・・・・・・まったく、兄の威厳はどこへ行ったのやら・・・。まあ、初めからあった のかすら怪しいのだが。 「寝言でもっともらしい事言われても説得力ゼロだよ〜?・・・・・・あっ」 この妹も、またもやいらん事を思いついたようである。 「起きないとこの辞書が落ちてきますよ〜、っと。・・・・・・まあさすがに本気で落とすつもりはないんだけど」 しかし、である。辞書と言うものは結構重かったりするものであり、紙でできたあの入れ物の上から持っていたりすると、かなりの確立で・・・・・・、 「あっ、あぶなっ・・・・・・」 ほら言わんこっちゃない。 辞書は重力に素直にしたがって兄の顔へと・・・・・・。 ―――ゴスッ!! 落ちていったとさ。まったく、相変わらず学習能力のないことで。大丈夫かな・・・・・・。 ―――その日の朝 「あ〜まだ首が痛てぇ・・・・・・」 「だから、ゴメンって言ってるじゃない。それに、お兄ちゃんが早く起きないのが悪いんだからね!!」 ここで、以前に掲載された番外編を読んでいない、困ったちゃん(?)の為に人物紹介といこう。 この、朝が大っ嫌いな兄が小宇坂陽輝。学園の高校一年生。そしてその妹、知夏。同じく高校一年生。 これ以上にこの二人の関係を知りたい人は、JACKPOT 58を手にとっていただければ幸いだ。そこには、この二人のこれまでを多少は詳しく書いたつもりだ・・・・・・。 「今日は芳野の人達のとこに挨拶に行くから、早く起きてねって言っといたでしょ!!」 「ああ、そういやそんなこと言ってた気もしなくはないような・・・・・・」 相変わらず阿呆な兄である。 「お、に、い、ちゃん・・・・・・? いい加減にしないと」 おっと、あまりにも不甲斐無い兄に制裁が加えられようと。 「わかった。わかってるって。とりあえず早く行こうぜ」 さすがに自身の置かれている立場を理解したようですね。こういうところも相変わらずのようです。 はぁ・・・・・・。何のために二年経過させたんだろ。 と落ち込むのもそこそこにしておいて、芳野家の説明でもしますか。 芳野家は陽輝の母方の従兄弟(つまり知夏とは血の繋がっていない)で、同じ町に住んでいた。とはいっても、広い町なので(?)そんなに会いに行くこともなく、結局八年以上顔を合わせていないというのが現実だ。 それなのに、なぜ今更会いに行かなくてはならないのかと言うと、これがまた困ったちゃんの親父の一言なのであった。 『お前たちを二人だけで家に置いておくのが心配になってきた。だから、すぐに芳野の家に住まわせてもらえ』 今まで、散々(知夏を預けるため、七年ぶりに一方的な連絡をしてきてからまた二年も)ほったらかしにしていたくせに、今更どういうつもりだ、とも思ったが、別に断る理由も見当たらなかったので(強いて言うなら長年暮らしてきた家を売り払うことぐらいだろう)癪だが従うことにしてやった。 ということで、二人は芳野家を目指していたのだが・・・・・・、なんというか、迷ったみたいですね。まあ八年も行っていなければ忘れても・・・・・・とフォローもしてやりたいのですが、さすがにつらいものがあるのでやめます。 「お兄ちゃんまさかとは思うけど・・・・・・」 「そんなことあるはずがない。この俺があれだけ通った家の場所を忘れるなど」 いや、大人気ないからもう認めろよ。 「あれ、陽輝君たちどうしたの? お休みの日に兄妹二人でこんなところまで来て」 話しかけてきたのは陽輝の幼なじみの早川美空。本人は自覚がないらしいが、かなりのドジっ娘である。それも一部の男子曰く、『度が過ぎていて、萌えることも出来ない』とか。 「ん、ああ美空か。いやな、久しぶりに芳野の家にでも行こうかと思って」 「来たのはいいけど迷ったんだよね〜お兄ちゃん♪」 「あはは、陽輝君以外とドジなんだね〜。知らなかったよ」 「お前だけには言われたくないぞ美空・・・・・・」 と言ってはみたもののもちろん美空の反応はいつもと変わらないもので、 「どうして? 美空は全然意味がわからないんだけど」 「いや、もういいや。言ったところでお前、絶対納得しないだろうし」 なにしろ、ずっと(それこそ出会ったときから)こんなやり取りを繰り返してきたのだ。いくら学習能力が無くてもいい加減覚えると言うものだ。 「ふうん・・・・・・。ま、美空もどうでもいいんだけどね。ところで、とっくに通り過ぎちゃったよ?」 「なに!? それを早く言ってくれよ。まったく」 もしかして、さっきの大きな家だったのだろうか。あまりにも来ていないため、小さい頃の記憶だけではわからなくなっているらしい。 「なによそれ。せっかく美空が道案内してあげたのに!」 「ごめんごめん。アリガトな」 というと美空はいきなり顔を赤くして、 「えっ、あっ、う、うん。じゃあ、ね・・・・・・」 とだけ残して自転車に乗って行ってしまった。 「・・・・・・なんだったんだ?」 「お兄ちゃん、わからないの?」 「ん、何のことだ?」 聞くと知夏はため息をついて、 「こっちも相変わらずなんだねお兄ちゃん・・・・・・」 とだけ言った。 「こんちわ〜っす。誰かいますか〜?」 その後なんとか来た道を戻ることで二人は芳野邸にたどり着くことが出来た。 「あれ、誰もいないのかな・・・・・・。連絡したはずなんだけど」 家の中には全くと言っていいほど人の気配が無かった。いくらなんでも無用心すぎるだろうと思ったそのとき、 「新聞なら要りませんよ〜。って、あれ・・・・・・?」 と、おバカ丸出しで出てきたのは、芳野カオル、芳野家の長男である。十六才。 「・・・・・・誰だったっけ? 俺、こんな友達いなかったような気がするんだけど」 いよいよ最低の部類に入ろうとしています。従兄弟の顔も覚えとらんのかこいつは。 「えっと、小宇坂陽輝ですけど? ちゃんと昨日電話しましたよ、聞いてなかったんですか? 琴姉から」 琴姉とは芳野家の長女で、本名は琴音、詳しい説明は本人が出てきてから。 「そういや、そんなことも言ってたような気がしなくもないような・・・・・・」 それすら怪しいのか。そこまで来ると、作者でも救えねえよ。 「まあ、どちらにせよ今、琴姉いねえし、どうしようもないぞ。 どうすんだ? うちに用事なんだろ」 「うん、まあ・・・・・・」 ほんとうに困った。琴姉が帰ってこないことにはどうしようもない。第一、家はもう次に入る人が決まってしまっているのだ。早めに出ないと、次に入ってくる人にも迷惑がかかってしまう。 「しゃあねえか。おい、とりあえず琴姉が家に帰ってくるまでここにいとけよ。どうせだれもいないし」 ということだったので、ありがたく上がらせてもらう事にした。ほぼ八年ぶりの芳野家の床、冗談抜きで久しぶりだった。なぜか懐かしい、いや、安心できる感じなのは、これからここで暮らす事になるからだろうか。まあなんだっていい。 「んじゃ、遠慮なく失礼します」 突然ですが、続く
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