の欠片〜2話〜
 
久住弥生

☆前回のあらすじ★担当:S川
なんだかんだあって、『山田探偵事務所』に連れてこられた蜜(みつ)と白奈(はくな)。青司がいきなりうちで働けと言いだした。それを拒否する蜜。そこで、青司が一言…



「仕方ないな…君らを返すわけには、いかない」
「わぁ、面白そう!」
「待てお前は何でそう軽々と!」
「楽しそうなものは楽しそうなんだもん」
この性格……小学生のころから変わってないのか……
「さあ、蜜君、君はどうする?」
「お断りだね。それから…白奈も連れて帰る!」
「んとねぇ、蜜がやめるなら私もやらない」
結局どっちなんだこいつ。
「このままこの部屋で……何日も過ごすことになるけど?」
「こんな部屋脱出してやる。中学生だからってなめんなよ! 俺は……」
ばぁんというドアの音、鍵を持った二人の女性が入ってきた。
格好付けそびれた俺はじとっとした目で二人を見たが、相手は全く気にしていない。
「あらあら、賑やかねえ」
「青司がいつになく真剣じゃない! 標準語なんて喋っちゃって!」
入ってきたのは二人の女性――夏黄さんと管理人さんだった。
「帰れゆうたのに……」
「青司、細かいことは気にしちゃいけない☆」
夏黄さんが楽しそうに言った。
「今日からうちのメンバーの、木之江(きのえ)白奈(はくな)君と、黒曜(こくよう)蜜(みつ)君」
「あたしは、南野夏黄。こっちが、二人も知ってるとおりここの管理人で、あたしの姉でもある……」
「南野緑です、気軽に緑さんって呼んで下さい。ヨロシクね」
「よろしくお願いしま〜す」
答えたのは白奈だ。
「おい、なんで俺も入ってるんだ?」
「ここのリーダーは俺やから、ここにいる限り俺の言うことは聞いてもらう方針で」
いつの間にか関西弁だし。なにその使い分け。
「青ちゃん、最近姫ちゃんに似てきたわねぇ。そういえば、この頃姫ちゃんと話してないわ」(緑)
「え、そうですか!? えー……微妙」(青司)
「姫って、真理さんですよね?」(白奈)
「あー、ちょっと分かるかも」(夏黄)
「待て待て待て話かみ合ってない……もういい帰るぞ!」
「往生際が悪いんやなあ。ぴりぴりしてると、お肌に悪いよ?」
と言って、人差し指で俺の頬を突く青司。その手をはたく俺。
「何すんだよ! 俺には仕ご……用事があるんだ。こんな事やってる暇はない!」
「ああ、芸能活動の方なら、スケジュール調整とかは悠人さんにまかせてるから心配ないやろ」
「だ か ら、これ以上悠人さんの負担を――え、何で?」
「? 君のマネージャーさんやろ。それ位」
「そうじゃなくて、何で悠人さんとか、仕事とか知ってんの?」
「悠人さんは俺の上司やで」
おうぅ? 今なんか言いました?
「や、だから、悠人さんは、こっち側(・・・・)の人間やから…」
「!」
何なんだ! 悠人さんが他人に俺のこと話したのか? 二話目にして正体ばれてるって何なんだよ!
こんこん、とノックの音が聞こえる。
「どうも、こんばんは」
扉が開いて短髪眼鏡――下川悠人さんが出てきた。
「ゆううううううとおおおおっお前っ! 何優雅に……」
「誰に向かってそんなこと言ってるんだ、蜜」
氷の目で睨んでくる悠人さんに、俺は勝てなかった。
「すみません」
「謝るん早ッ」
「で、どうする? やるのか、やらないのか」
俺の野生の勘はこう言った────やらなきゃ殺られる!
「悠人さんがおっしゃるのなら」
「よろしい」

「というわけで、君らは今日からうちの従業員。事務所には、毎日やなくて構わんからなるべく顔出してな。あ、心配せんでも給料はちゃんと出るで〜具体的には……」
俺たちは今、会議室にいる。説明会だとか言って連れてこられたのだ。ホワイトボードに向かう青司をのぞく全員が机を囲んで座っている。
青司の一生懸命な説明を、俺は何となく聞いているが、奥に座っている夏黄さんと緑さんは、完全に無視して世間話に花を咲かせている。悠人さんはただ手前に座っていて、白奈は俺の隣でボードに書かれた文字を真剣にノートに板書している。メモ取る必要ないと思うんだけどなぁ。
「あとはぁ……悠人さん、やっぱりこの組織について説明しとくべきですかね?」
「組織? 探偵事務所なんだろ?」
悠人さんはすっと立ち上がってボードマーカーと青司のポジションを奪う。可哀想に、青司は部屋の隅に追いやられた。 「名目上はそうなっているが、ここは個人経営じゃなくて国の管理下に置かれてる。国の極秘任務を国民に知られないように遂行(白奈がペンを止めて首を傾げた)簡単に言えば、国のスパイみたいなもんだな」
「スパ……何それギャグ?」
「本気だ。世の中には、ないと思っていても存在するモノがたくさんある。それはどの世界でも同じで……すまない、話がそれたな。とにかく、本当のことなんだ」
白奈が手を挙げた。こいつは少しも疑っちゃいないようだ。
「具体的に、どういう事をするんですか?」
「平和維持のための活動。情報収集、危険品の回収、犯罪者の逮捕……いろいろあるね」
結構適当だ……白奈は頷いてまたノートにメモを取っている。俺は、重要なことに気が付いた。後ろ二つ、おかしくないか?
「それって危なくないのか?」
「危険じゃないわけないだろ。君らの任務には危険が付き物だ」
「はぁ!? そんな仕事を俺らにやらせるわけ?」
「お前なら大丈夫、父親から色々教わってるだろ」
色々、ねぇ……自分の身を守るくらいは出来る。けど、そういう問題じゃないだろ。
っていうか、うちの親父といいこいつらといい、どうして俺の周りには普通の人間がいないんだろう。泣けてくる。
「俺も、お父さんから蜜のことは聞いてるで」
「お前、親父のこと知ってんのか!?」
「知ってる知ってる。『俺の息子は役に立つ、俺の代わりに使ってくれ。おまけも付いてくるだろ』って、ゆっとったで」
元凶はくそ親父(あいつ)か!
「おまけって、私?」
「多分、そうやろうな。あ、一個忘れとった! 最初のうちは俺が一緒に行動するけど、慣れてからは白奈ちゃんと蜜でペア組んでもらうからな」
「白奈ちゃんを危険な目に遭わせないためにも、蜜、お前は頑張らなくちゃならないわけだ」
危険な目に遭わせようとしてるのはお前らだろ!
「みんなそれぞれ仕事を持ってるのよ」
いつの間にか夏黄さんが会話に入っていた。
「青司の司令に合わせて、私が集めた情報をお姉ちゃんがデータ処理するの。人が足りないから、それぞれの役職をやってればいいわけじゃないけど。でも、二人が入ってくれるなら随分楽になるわね」
……何やらされるんだか、恐ろしいな。
「普段から、危ないことばかりじゃないの。そう言うお仕事は、たま〜〜にしか、来ないからね、安心して良いのよ」
「はいここテストに出るで〜」
「黙れふざけんな」
「……蜜君、俺にだけ厳しくない?」
「だぁまらっしゃい! お前もう喋るな!」
「ひっど! ひっどいわぁ、お前呼ばわりやし」
俺はこの先この村で、やっていけるんだろうか……微妙だ。
「で、私たちは何を?」
「特別捜査部隊。主に雑用。……万屋みたいな?」
「さっきも言ったけど、あまり危険なお仕事は来ないからね」
「めっちゃ重要やから、この仕事。あと、ちょーっと面倒で大変で……危ない、かもしれないけど、やりがいはあるから!」
「わぁ。面白そう、ね? 蜜!」
……あぁ多分俺、やっていけない。


〈続〉


☆中途半端に半ページ余ったからおまけの後書き☆

「蜜! 今日お仕事があるんだって。初めてのお仕事だよ!」
 聞きたくはないけど、一応「何するんだ?」と聞いてみる。
「まだ聞いてない」
「それは俺から説明しよーう!」
 でた、うざいのが。勿論、青司だ。
「う〜ん、今なんか黒いモンが見えた気がするけど、ここはさらっとスルーするとこなんやろか?」
「いいから早く言えよ、今日は忙しいんだから」
行数も少ないしなと、青司は頷いた。
「一個か二個上の階に住んでる、久住って人居てるやろ?」
「作者か?」
「そうや、そうそう。その作者から、手紙が届いたンやけど、これを解決するのが、最初の任務」
それって苦情……? 青司が小さな封筒を白奈に渡した。
「私が読むんですか? えっと、『もうちょっと、面白い展開にならないのかなぁ、こんな落ちのない所で終わって良いの?』」
「……言って良いか? 絶対これ、作者が悪いだろ、俺ら関係ないだろ」
「え、あ、ちょっと。もう行数ないよ」
「知るか! この半ページ作者の自己満足だろ!! だいたいなぁ……


JACKPOT60号掲載
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