久住弥生 なんだかんだあって、『山田探偵事務所』に連れてこられた蜜(みつ)と白奈(はくな)。青司がいきなりうちで働けと言いだした。それを拒否する蜜。そこで、青司が一言… 「仕方ないな…君らを返すわけには、いかない」 「わぁ、面白そう!」 「待てお前は何でそう軽々と!」 「楽しそうなものは楽しそうなんだもん」 この性格……小学生のころから変わってないのか…… 「さあ、蜜君、君はどうする?」 「お断りだね。それから…白奈も連れて帰る!」 「んとねぇ、蜜がやめるなら私もやらない」 結局どっちなんだこいつ。 「このままこの部屋で……何日も過ごすことになるけど?」 「こんな部屋脱出してやる。中学生だからってなめんなよ! 俺は……」 ばぁんというドアの音、鍵を持った二人の女性が入ってきた。 格好付けそびれた俺はじとっとした目で二人を見たが、相手は全く気にしていない。 「あらあら、賑やかねえ」 「青司がいつになく真剣じゃない! 標準語なんて喋っちゃって!」 入ってきたのは二人の女性――夏黄さんと管理人さんだった。 「帰れゆうたのに……」 「青司、細かいことは気にしちゃいけない☆」 夏黄さんが楽しそうに言った。 「今日からうちのメンバーの、木之江(きのえ)白奈(はくな)君と、黒曜(こくよう)蜜(みつ)君」 「あたしは、南野夏黄。こっちが、二人も知ってるとおりここの管理人で、あたしの姉でもある……」 「南野緑です、気軽に緑さんって呼んで下さい。ヨロシクね」 「よろしくお願いしま〜す」 答えたのは白奈だ。 「おい、なんで俺も入ってるんだ?」 「ここのリーダーは俺やから、ここにいる限り俺の言うことは聞いてもらう方針で」 いつの間にか関西弁だし。なにその使い分け。 「青ちゃん、最近姫ちゃんに似てきたわねぇ。そういえば、この頃姫ちゃんと話してないわ」(緑) 「え、そうですか!? えー……微妙」(青司) 「姫って、真理さんですよね?」(白奈) 「あー、ちょっと分かるかも」(夏黄) 「待て待て待て話かみ合ってない……もういい帰るぞ!」 「往生際が悪いんやなあ。ぴりぴりしてると、お肌に悪いよ?」 と言って、人差し指で俺の頬を突く青司。その手をはたく俺。 「何すんだよ! 俺には仕ご……用事があるんだ。こんな事やってる暇はない!」 「ああ、芸能活動の方なら、スケジュール調整とかは悠人さんにまかせてるから心配ないやろ」 「だ か ら、これ以上悠人さんの負担を――え、何で?」 「? 君のマネージャーさんやろ。それ位」 「そうじゃなくて、何で悠人さんとか、仕事とか知ってんの?」 「悠人さんは俺の上司やで」 おうぅ? 今なんか言いました? 「や、だから、悠人さんは、こっち側の人間やから…」 「!」 何なんだ! 悠人さんが他人に俺のこと話したのか? 二話目にして正体ばれてるって何なんだよ! こんこん、とノックの音が聞こえる。 「どうも、こんばんは」 扉が開いて短髪眼鏡――下川悠人さんが出てきた。 「ゆううううううとおおおおっお前っ! 何優雅に……」 「誰に向かってそんなこと言ってるんだ、蜜」 氷の目で睨んでくる悠人さんに、俺は勝てなかった。 「すみません」 「謝るん早ッ」 「で、どうする? やるのか、やらないのか」 俺の野生の勘はこう言った────やらなきゃ殺られる! 「悠人さんがおっしゃるのなら」 「よろしい」 「というわけで、君らは今日からうちの従業員。事務所には、毎日やなくて構わんからなるべく顔出してな。あ、心配せんでも給料はちゃんと出るで〜具体的には……」 俺たちは今、会議室にいる。説明会だとか言って連れてこられたのだ。ホワイトボードに向かう青司をのぞく全員が机を囲んで座っている。 青司の一生懸命な説明を、俺は何となく聞いているが、奥に座っている夏黄さんと緑さんは、完全に無視して世間話に花を咲かせている。悠人さんはただ手前に座っていて、白奈は俺の隣でボードに書かれた文字を真剣にノートに板書している。メモ取る必要ないと思うんだけどなぁ。 「あとはぁ……悠人さん、やっぱりこの組織について説明しとくべきですかね?」 「組織? 探偵事務所なんだろ?」 悠人さんはすっと立ち上がってボードマーカーと青司のポジションを奪う。可哀想に、青司は部屋の隅に追いやられた。 「名目上はそうなっているが、ここは個人経営じゃなくて国の管理下に置かれてる。国の極秘任務を国民に知られないように遂行(白奈がペンを止めて首を傾げた)簡単に言えば、国のスパイみたいなもんだな」 「スパ……何それギャグ?」 「本気だ。世の中には、ないと思っていても存在するモノがたくさんある。それはどの世界でも同じで……すまない、話がそれたな。とにかく、本当のことなんだ」 白奈が手を挙げた。こいつは少しも疑っちゃいないようだ。 「具体的に、どういう事をするんですか?」 「平和維持のための活動。情報収集、危険品の回収、犯罪者の逮捕……いろいろあるね」 結構適当だ……白奈は頷いてまたノートにメモを取っている。俺は、重要なことに気が付いた。後ろ二つ、おかしくないか? 「それって危なくないのか?」 「危険じゃないわけないだろ。君らの任務には危険が付き物だ」 「はぁ!? そんな仕事を俺らにやらせるわけ?」 「お前なら大丈夫、父親から色々教わってるだろ」 色々、ねぇ……自分の身を守るくらいは出来る。けど、そういう問題じゃないだろ。 っていうか、うちの親父といいこいつらといい、どうして俺の周りには普通の人間がいないんだろう。泣けてくる。 「俺も、お父さんから蜜のことは聞いてるで」 「お前、親父のこと知ってんのか!?」 「知ってる知ってる。『俺の息子は役に立つ、俺の代わりに使ってくれ。おまけも付いてくるだろ』って、ゆっとったで」 元凶はくそ親父(あいつ)か! 「おまけって、私?」 「多分、そうやろうな。あ、一個忘れとった! 最初のうちは俺が一緒に行動するけど、慣れてからは白奈ちゃんと蜜でペア組んでもらうからな」 「白奈ちゃんを危険な目に遭わせないためにも、蜜、お前は頑張らなくちゃならないわけだ」 危険な目に遭わせようとしてるのはお前らだろ! 「みんなそれぞれ仕事を持ってるのよ」 いつの間にか夏黄さんが会話に入っていた。 「青司の司令に合わせて、私が集めた情報をお姉ちゃんがデータ処理するの。人が足りないから、それぞれの役職をやってればいいわけじゃないけど。でも、二人が入ってくれるなら随分楽になるわね」 ……何やらされるんだか、恐ろしいな。 「普段から、危ないことばかりじゃないの。そう言うお仕事は、たま〜〜にしか、来ないからね、安心して良いのよ」 「はいここテストに出るで〜」 「黙れふざけんな」 「……蜜君、俺にだけ厳しくない?」 「だぁまらっしゃい! お前もう喋るな!」 「ひっど! ひっどいわぁ、お前呼ばわりやし」 俺はこの先この村で、やっていけるんだろうか……微妙だ。 「で、私たちは何を?」 「特別捜査部隊。主に雑用。……万屋みたいな?」 「さっきも言ったけど、あまり危険なお仕事は来ないからね」 「めっちゃ重要やから、この仕事。あと、ちょーっと面倒で大変で……危ない、かもしれないけど、やりがいはあるから!」 「わぁ。面白そう、ね? 蜜!」 ……あぁ多分俺、やっていけない。 〈続〉
☆中途半端に半ページ余ったからおまけの後書き☆ 「蜜! 今日お仕事があるんだって。初めてのお仕事だよ!」 聞きたくはないけど、一応「何するんだ?」と聞いてみる。 「まだ聞いてない」 「それは俺から説明しよーう!」 でた、うざいのが。勿論、青司だ。 「う〜ん、今なんか黒いモンが見えた気がするけど、ここはさらっとスルーするとこなんやろか?」 「いいから早く言えよ、今日は忙しいんだから」 行数も少ないしなと、青司は頷いた。 「一個か二個上の階に住んでる、久住って人居てるやろ?」 「作者か?」 「そうや、そうそう。その作者から、手紙が届いたンやけど、これを解決するのが、最初の任務」 それって苦情……? 青司が小さな封筒を白奈に渡した。 「私が読むんですか? えっと、『もうちょっと、面白い展開にならないのかなぁ、こんな落ちのない所で終わって良いの?』」 「……言って良いか? 絶対これ、作者が悪いだろ、俺ら関係ないだろ」 「え、あ、ちょっと。もう行数ないよ」 「知るか! この半ページ作者の自己満足だろ!! だいたいなぁ…… JACKPOT60号掲載 背景画像:NOION様 |